皮膚糸状菌症

猫の皮膚糸状菌(真菌、いわゆるカビの一種)は80~90%がMicrosporum Canisという種類による感染症です。この菌は健常な猫の5~24.6%からも分離されます。一時的な寄生、もしくは症状は出しませんが感染している状態(不顕性感染)としても、猫の体表に分布しています。

皮膚糸状菌症は、猫では発症してもその症状は一般的に軽く、成猫に比べ皮膚の防御機能が未熟な子猫で認められることが多い疾患です。成猫の皮膚糸状菌症は、他の病気の合併症、多頭飼育環境、新しい同居猫やキャットショーなどで他の猫と接触した際に発症することが多いです。

臨床症状

この菌は被毛、皮膚の角層、爪に感染します。
顔や手足の先、尾端に病変が認められることが一般的ですが、全身的に拡がった場合には、背中を中心にバラバラと皮疹が認められることがあります。皮疹の形としては、脱毛斑・粟粒のような湿疹(手で触るとプツプツした感じ)、時に強い炎症反応が起こることもあります。

検査

まず最初に顕微鏡検査で、胞子や菌糸を探します。これらが見つからなくても、特徴的な毛の形態異常が見つかれば、本症を疑ってみます。M.Canis感染毛は見つけやすいため、猫の皮膚糸状菌症ではこの毛検査が有用です。

確定診断は、糸状菌そのものを培養検査にて検出することです。ウッド灯という紫外線照射の検査もありますが、M.Canisの場合、その検出率は約半数で、菌が蛍光色(青リンゴ色)を発光する以外に、ほこりやフケなどでも光ることがあるため、この検査は診断に使うよりも治療効果の判定に有用な検査であると考えられています。

培養検査は7~10日前後かかり、シェルターのような多頭飼育環境ではその結果を待っているまで何もしないでいることは現実的ではありませんので、皮膚糸状菌による感染が疑われたら、適切な外用薬の使用や全身性抗真菌薬(イトリゾールなど)を用いた治療を開始しています。

環境への対策

乾燥環境中に落下した皮膚糸状菌は、1~7年間は感染性を保持するといわれているので、積極的な環境の処置が必須となります。掃除機でほこりや抜け落ちた毛などを吸い取り、雑巾がけなども行い、感染被毛を機械的に除去することも有効な手段です。

環境に用いる消毒剤としては、一番入手しやすいものとしては塩素(塩素1:水10で使用)があげられますが、塩素なので脱色作用があります(グルターZも有効ですが、動物病院を介さないと入手できません)。塩素のかけられないような場所では、防カビ剤としてミラガードという商品もありますが、価格は高めです。また、新しいタイプの消毒剤として二酸化塩素を用いた『バイオウィル』『パルエックス』というものもあります。ただし、こちらも脱色作用がありますので、噴霧する場所には注意が必要です。

積極的な掃除をすることにより、環境の完全な清浄化は得られなくても、濃厚な汚染を回避することが出来ます。

皮膚糸状菌は人畜共通感染症なため、動物だけではなく、環境から人、人から人に感染します。
感染した猫に接触する頻度の高い人、子供やお年寄り、あるいは免疫力の低下した人には、毎日の入浴や猫に触れた後、必ずその部位を洗浄するようにしましょう。万が一、皮膚に湿疹が出来た場合は、市販の薬は使用せずに、すみやかに皮膚科医を受診するようにし、猫(動物)を飼っていますと担当医に伝えるようにしてください。