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ねこのゆめ〜成猫のお引取と再譲渡事業〜 開始のきっかけになった出来事


「猫を助ける仕事」光文社新書
(東京キャットガーディアン代表:山本葉子 / ニッセイ基礎研究所不動産研究部長:松村徹 共同著書あとがきより)

ねこのゆめ〜成猫のお引取と再譲渡事業〜について


本の執筆中に同年輩の男性と出会いました。西国分寺シェルターを訪ねてこられたその方は「代表に会いたい、時間がないんだ」とおっしゃり、彼の家に伺う事になりました。

「すい臓がん、余命数ヶ月。猫のために建てた家と、この子たちと、財産を全部渡したい。外の猫たちも可能な限り助けてやってくれ」

体調がどんどん悪化する中で、入院を拒み、ぎりぎりまで自宅に留まり、ご自身は食事もろくに取らずに猫たちの餌やりを続けるけれど、彼は猫たちを撫でたり甘い声をかけたりはほとんどしませんでした。
ご飯をちゃんと食べて好き勝手に家の中でごろごろしている姿を目の端で見ている、そんな距離感のある愛情でした。

 

シェルター(本部)のある大塚から車で二時間、一日二回通い続けた間にたくさんの話をしました。
事業家でビジネスの話ならとても感度のいい彼は、東京キャットガーディアンの動物保護をソーシャルビジネスで継続させる手法を大変気に入ってくれて、「僕と同じように考える人たちが続いて来るはずだ。モデルケースになりたい。本やホームページに名前と経緯を出していい」とおっしゃいました。
梅田誠さんです。

 

「これは仕事の契約書だよ」と渡された遺言書。入院してからも何度も持ち直し、「次も」と気が少し弛んでいた時に、ふっ……と逝ってしまわれました。私は大きな依頼を引き受けました。

 

自分の命が尽きるぎりぎりまで一緒にいたいわが子同様の犬猫たち。でも、ぎりぎりまでその子たちの行く先を決めないでいるわけにはいかない。気丈な方ほど引き裂かれる想いを味わいながら、早めに次の飼い主さん探しを開始します。梅田誠さんは、これをビジネスの手法で解決しろといわれました。

本のあとがきに書かせて頂いた梅田誠さんは、猫たちと別れて入院した病室であまり悲痛な顔もせず、気力の衰えなど少しも感じさせない話ぶりでした。
お家の8匹の猫たちのお世話の前後に、毎日お見舞いに伺っていた私は、猫たちのブラッシングした毛とそれぞれの写真をセットにして持っていて、「いつ渡そうかな?」と逡巡しながら、一番警戒心の強い子がごろんとお腹を見せてくれた日に、嬉しくてついそう告げながら写真がある事を言ってみました。

 

「お!見せて見せて!」

 

屈託なく笑って手を伸ばした彼が、ベッドに突っ伏すまでに数秒。

 

嬉しくて次々と見る、凄まじい勢いでわき上がる記憶と想い、もう会えないんだと言う事実。
噛み締めた口の横から漏れる音にもならない悲鳴と、血管が浮き出るほどに握りしめた手の中で、滅茶苦茶につぶれている写真。

 

私は保護活動の過程で、人が挟持をかなぐり捨てて壊れる瞬間に何度か立ち会っています。

 

迂闊でした。

 

少しして顔を上げた梅田誠さんは、でも何事も無かったかのように「失礼した」と、さらっと言いました。

 

積み立てのような形で「高齢者のペット問題」や「一人暮らしの伴侶動物の案件」を解決出来ないかと長年考えていました。
動物を助ける事を仕事にする会社….を、梅田誠さんが本気で検討していらした事は、ご本人からも、後にご友人からもお聞きしました。
一度に引き受けのお話しがたくさん来たら、対応出来るだけの体制はあるのか?と自分に問うてぐずぐずと臆病になっていた私に、「家とお金を使ってくれ」と梅田誠さんが背中を押してくれました。

 

シェルターはどんなに頑張ってもご家庭にかないません。新しいお家に迎えて頂ける子はなるべくその方向で。高齢や疾病など譲渡が難しいケースなら出来る限りのケアをしながら、なるべく楽しく全う出来るように。そして、一般の方が無理なく使う事の出来る方法と金額で。

 

足りていないシステムを、1つ作りました。
他にもあるであろう色々な方法と共に、検討していただければ幸いです。

 

NPO法人東京キャットガーディアン代表 山本葉子

 

「猫を助ける仕事」光文社新書
「野良猫の拾い方」大泉書店

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